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 アメリカ合衆国第3代大統領だったトーマス・ジェファーソンは、「陪審制度は平和と安全の『試金石』」という言葉を残されました。日本の旧陪審法が出版法や治安維持法の対象外になっているために、昭和10年代に、警察官や検察官による言論弾圧事件が起きました。特に有名なのが、作家であり、「蟹工船」の著者として知られる小林多喜二氏が1933年に受けた言論弾圧と1942年の大東亜戦争中に起きた横浜事件という言論弾圧事件です。当時は天皇陛下のもとの裁判であり、かなり公平に行われていたのであり、今の様に刑事裁判は暗黒裁判ではないので、すさまじい拷問による自白をしなければ無罪になったでしょうが、拷問で命を落とす様な取り調べに一般人には耐えられません。

 もし、陪審法が刑罰が軽い出版法でも適用されれば、軍部批判をしていた河合栄治郎氏が逆転有罪判決を受ける事もなかったでしょうし、法務官僚の影響で治安維持法が陪審法の適用外にされなければ、小林多喜二氏や横浜事件に巻き込まれた47人の内、5人が命を落とす事はなかったでしょう。放火や殺人で起訴された陪審裁判では、拷問による自白はまったく採用されませんでしたから、さすがに警察官も検察官も拷問による自白を取ろうとは思わなかったはずです。

 治安維持法が悪法として言われていますが、旧陪審法の対象外として、拷問による自白を許してしまったのが問題であり、皇室関係者や政治家や実業家を暗殺しようとする右翼テロや社会主義者を取り締まる事は当然の事です。歴史学者のリチャード・H・ミッチェル(Richard H Mitchell)氏が、1976年に書かれた「Thought Control in Prewar Japan」という本に、治安維持法による日本の思想統制についていろいろと書かれています。

 この本では、日本の思想統制は大した事はなかったと解説しています。その証拠に、多数の逮捕者が出ましたが、死刑になったのは、ジャーナリストの尾崎秀美氏1人ではないかと解説しています。(ソビエトのスパイだったリヒアルト・ゾルゲ氏も死刑になった事を忘れていますが・・・。)転向という日本独特な方法で再犯率1%以下という事を評価して、この頃の日本の思想統制がひどかったという通説を否定しています。

 この本の序論と結論で強調している様に、ナチス・ドイツやソビエト連邦の思想弾圧と比較すると、治安維持法は、大した事はなかったですが、旧陪審法についての重要性が書かれていなかったのが残念だったです。個人的には、法務官僚が陪審法の欠陥を上手く作ってしまったために、取り調べ中の拷問と思想弾圧を許してしまった事も書いて欲しかったです。それにしても、日本の歴史学者よりも、渡部昇一氏の様な英文学者やリチャード・H・ミッチェル氏の様な外国の歴史学者の方がレベルが高いのは、なぜなのでしょうか。

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蟹工船 (Bunch Comics Extra)蟹工船 (Bunch Comics Extra)
著者:小林 多喜二
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 社会主義者である著者が当時の日本が抱えていた資本家が労働者を苦しめている問題点を描いた作品です。当時の社会情勢は、今の日本人の感覚ではわからないところがあるので、漫画でわかりやすく説明しているこの本を読むのがいいと思っているので、ぜひ読んでみてくださいね。